ヨーロッパ中に散らばる「廃墟」は、私たちに何を問いかけているのか?
さまざまな難問に直面するヨーロッパ各地を丹念に取材し、
〈崩壊の現場〉からこの世界の現在と未来を考察するルポルタージュ。
《破滅の後には再生がある。湿潤な気候の日本では木造家屋が朽ち果てて自然に戻り、
その上に新たな社会が上書きされるのに対し、広大で乾いた欧州の大地では、
石造りの建物が廃虚となって存在感を示し続ける。
その痕跡を日々目にし、そこから教訓を学びつつ、人々はその隣に新たな社会を建設する。
欧州の廃虚をめぐる本書は、したがって破壊の過程をたどるとともに、そこに潜む再生への道筋を探る旅ともなるだろう。》
(本書「はじめに」より)
<内容より>
▼チェルノブイリ原発事故で無人となった街
▼戦前大いに栄え、戦後は朽ち果てたピレネー山中の乗換駅
▼頓挫した南イタリアの産業振興策の残骸
▼EU離脱を多くの住民が支持した英国のラストベルト
▼内戦や虐殺の歴史を経て分断が定着した街
▼極端な人口減少によって衰退へむかう国家
▼ホロコーストの記憶を発信しつづけている収容所跡地
……
目次
はじめに
第1章 よみがえるソ連――プリピャチ
■「ウクライナでもっとも快適な道路になりました」
■再現されたソ連の生活風景
■想像力を呼び戻す仕掛け
■「一時的に、三日間だけ避難せよ」
■帰還者の行方
第2章 足元に潜む核戦争――ロンドン
■米ソの「ホットライン」も経由
■核シェルターは政府関係者専用
■戦略の要として復権しつつある核兵器
第3章 分断された世界――ボスニア・ヘルツェゴビナ
■「互いに撃ち合った過去」の呪縛
■「首都で私はトイレに行かない」
■利権を差配する「お山の大将」
■狭い行政区に大臣が十五人
■聖火台のマクドナルド
■「EUのレベルに達するには百年かかる」
第4章 名君だった「暴君ネロ」――ローマ、ポンペイ
■ポピュリスト政治家としての皇帝ネロ
■ポンペイ落書きが語る意外な人物像
■フェイクニュースが歴史になるとき
■タイムカプセルとしてのポンペイ遺跡
■歴史は発見とナラティブのせめぎ合いでつくられる
第5章 人影が消えた浜辺――キプロス
■閉ざされた「地中海の宝石」
■「住民の間には、もはや何の対立もありません」
■三種類の旅券を保有する住民たち
■キプロス問題を左右するエルドアンの思惑
■三つのシナリオ
■トルコによる北キプロス併合という悪夢
第6章 峠を越えた金塊――ピレネー山脈・カンフラン国際駅
■ナチスの金塊が運び込まれた国境の駅
■線路上に散らばっていた古い書類
■中立国スペインの複雑な立場
■金塊の用途と行き先
■古びた窓枠から歴史を振り返る
第7章 地中海の中心で、地図を描く――南イタリア・カラブリア
■頓挫した開発とマフィア、発がん性物質
■人口二百万人の州に四百万人分の住宅
■辺境が地中海の中心になる日
第8章 アウシュヴィッツの東を見よ――ソビブル、トレブリンカ、ベウジェツ
■ソ連によって整えられた虐殺の条件
■ホロコーストを物質的な面から分析する
■なぜアウシュヴィッツが象徴となったのか
■ソビブルの名札
■有刺鉄線を越えて
■立ち尽くす一万七千の石
■「青い壁」の秘密
■演出はどこまで必要か
■政治によって封印された記憶
■絶滅収容所映画が意図するもの
第9章 虹の彼方に消えた「移民」――ウェスト・ヨークシャー
■半世紀にわたる衰退の歴史
■なぜアジア系住民はEU離脱に賛同したのか
■スケープゴートにされた「ポーランド移民」
■「レフト・ビハインド」の虚実
■「ブレグジット」から「ブレグレット」へ
第10章 かつてこの国に王がいた――ソフィア
■国王から亡命者、そして首相に
■廃屋がブルガリアの共通の風景
■若者が夏休みにだけ帰ってくる国
■新興大国の草刈り場
■ガラパゴス化するEUの政治モデル
■ポピュリストが語る「心温まる社会」
■「世界の終わり」と「月末までの生活」
■EUの存在意義はどこにあるのか
第11章 ボタ山が育んだ政治勢力――ノール・パドカレー炭田
■平屋の美術館「ルーブル分館」
■多様な人々によって育まれた豊かさ
■マリーヌ・ルペンの拠点となったボタ山の街
■「欲しいのは、援助やカネじゃない」
■利用される「不平等感」と「承認欲求」
■「トランプなんて、まだましだった」
第12章 ナンバープレートの上の「国家」――コソボ・ミトロヴィツァ
■国境でのばかげた「義務」
■政府によって煽られる住民対立
■コソボ政府の行政能力にも不信感
■「プーチンは嘘つきの常習犯です」
■セルビアとコソボに共通する自己認識
第13章 共産主義の亡霊が徘徊する――ブダペスト
■「恐怖の館」の政治性
■目指すのは「非リベラルな社会」
■「外国をコピーするだけではだめだ」
■イデオロギーからアイデンティティーへ
■「オルバンの手法はスズキの工場と同じ」
■「三十年前とあまり変わっていない」
■富裕層と貧困層の結託
■「総統民主主義」が審判を受ける日
第14章 壁なき大平原の幻想――ベルリン
■消滅したはずの「壁」が再び立ちふさがる
■「欧州の病人」から「一人勝ち」へ
■「接近による変化」の理想と現実
■メルケル政権の「功」と「罪」
■「相互依存は安定には結びつかなかった」
破壊と再生――結びにかえて
著者プロフィール
国末 憲人 (クニスエ ノリト) (著)
国末憲人(くにすえ・のりと)
東京大学先端科学技術研究センター特任教授、ウクライナ国立工科大学客員教授。1963年岡山県生まれ。1985年大阪大学卒。1987年に紀行「アフリカの街角から」でノンフィクション朝日ジャーナル大賞優秀賞を受賞。同年、パリ第2大学新聞研究所を中退し朝日新聞に入社。パリ支局長、GLOBE編集長、ヨーロッパ総局長を務めた。2024年より現職。著書として『自爆テロリストの正体』『サルコジ』『ミシュラン 三つ星と世界戦略』 (以上、新潮社)『ユネスコ「無形文化遺産」』(平凡社)『ポピュリズム化する世界』(プレジデント社)『ポピュリズムと欧州動乱』(講談社)『ロシア・ウクライナ戦争 近景と遠景』岩波書店『ポピュリズムに蝕まれるフランス』『イラク戦争の深淵』『巨大「実験国家」EUは生き残れるのか?』『テロリストの誕生』(以上、草思社)などがある。