出会ったころは掌に載るほど小さかった子猫は、二十年近い歳月を経て死が近い。老いと病で苦しむ猫を懸命に介護する「私」。
猫との日々を思い、係累や友人の死に様が脳裏をよぎることもある。夫と別れ、懸命に仕事をしながら住処を転々と移っても猫は一緒だった。
猫と暮らしつづけるため、東京中を歩き回って見つけた都心に近いマンションの一室を購入して数年後、猫の老いが始まっていた。
檻のなかに籠もるような「私」と猫の住む部屋に男友達が訪ねてくることもあったが、やがて離れていった。「私」はいつしか猫を殺してしまいたいほどの愛着を抱いていた。
休暇を取り、猫と冬の海に赴いた「私」。猫はキャリーバッグから這い出て、残りすくない生命力をふりしぼって岩場でマーキングをする。「私」は自分が大地の一部になったような快感に浸る――。
生命のリアルと根源をリリカルに描く傑作連作小説。
目次
目次:
夜の胞子
漂う箱
竹が走る
朝が二度来る
交換
七千日
あとがき
解説
年譜
著書目録
著者プロフィール
稲葉 真弓 (イナバ マユミ) (著)
稲葉真弓(1950・3・8~2014・8・30)
小説家、詩人。愛知県生まれ。愛知県立津島高等学校卒業。1973年「蒼い影の痛みを」で女流新人賞を受賞。「琥珀の町」で1990年下期芥川賞候補となり本格的に作家活動を開始。1992年『エンドレス・ワルツ』で女流文学賞、1995年『声の娼婦』で平林たい子文学賞、2008年短篇「海松」で川端康成文学賞、2010年『海松』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。『半島へ』で2011年谷崎潤一郎賞、中日文化賞、2012年親鸞賞を受賞。2014年紫綬褒章を受章。同年膵臓癌のため逝去。