著者前書きより▼
何もないと日記が書けないような気がするが、日々の絵日記を集めてみたら、何もないときのことしか描いていなかった。二〇二五年には、旅行もしたし、久しぶりの人にも会ったし、漫画の連載も始まったし、展示もしたのだけれど、わたしがメモに残したいと思ったのはそういう出来事から漏れた、生活の中のせいぜいささくれ程度のことどもだ。思えばわたしにはそういった、人に言っても詮ないことを、ことさら人に言いたい、という欲求があるようだ。加えて、他人を絵にする、というのは人を主観に閉じ込めることになるので気軽な日記にしづらいけれど、自分はいくらでもぐにゃぐにゃに扱えるから自分のことばっかりになる、というのもある。一人の生活は、ともすれば孤独でつまらないと思われがちで、しかしこの場所を心から楽しんでいる。
一年と少しのスケッチ見返して思うのは、季節ごとに同じことを繰り返してること。なのに普段そのことを忘れ去っていること。そして近頃の東京はほんとに暑い季節が長いしわたしは湿気に弱い。自分が生き物だなあ、と実感する。これはそういう観察の記録でもありそうだ。
他人といる時のわたしは、相手から反射してきた自分の姿を見てどうにか輪郭を保っているが、一人のわたしは不定形だ。そのさまを覗いていってほしい。
新書判/116ページ