2023年に18年ぶりのリーグ優勝、38年ぶりの日本一を果たし、沸き立つ阪神タイガース。
そのタイガースの歴史上、「最大のミステリー」とされる人物がいる。
第8代監督・岸一郎。
1955 (昭和30) 年シーズン、プロ野球経験ゼロの還暦を過ぎたおじいさんが、突然、タイガースの一軍監督に大抜擢されてしまったのだ。
「なんでやねん?」 「じいさん、あんた誰やねん?」
困惑するファンを尻目に、ニコニコ顔で就任会見に臨んだ岸一郎。
一説には、「私をタイガースの監督に使ってみませんか」と、手紙で独自のチーム改革案をオーナーに売り込んだともいわれる。
そんな老人監督を待ち構えていたのは、迷走しがちなフロント陣と、ミスタータイガース・藤村富美男に代表される歴戦の猛虎たち。
メンツを潰された球団のレジェンド、前監督の松木謙治郎も怒りを隠さない。
不穏な空気がチームに充満するなかで始まったペナントレース。
素人のふるう采配と身勝手に振る舞う選手たちは互いに相容れず、開幕後、あっという間にタイガースは大混乱に陥っていく……。
ファンでも知る人は少なく、球史でも触れられることのないこの出来事が単なる“昭和の珍事”では終わらず、
タイガースの悪しき伝統である“お家騒動体質”が始まったきっかけとされるのは、なぜなのか?
そもそも岸一郎とは何者で、どこから現れ、どこへ消えていったのか?
満洲─大阪─敦賀。ゆかりの地に残された、わずかな痕跡。
吉田義男、小山正明、広岡達朗ら当時を知る野球人たちの貴重な証言。
没年すら不詳という老人監督のルーツを辿り、行方を追うことで、日本野球の近代史と愛憎渦巻く阪神タイガースの特異な本質に迫る!